パラスポーツに関わる方々に、出会いのきっかけや今後への想いをお聞きしました。
僕自身が皆さんの“きっかけ”になりたい
僕は大分県で生まれ育ち、子どもの頃からずっと野球をやってきました。そしてプロになり、最後は独立リーグでプレーし、去年、引退するまで野球を中心に生きてきました。当然、土日も野球だったので、パラスポーツと関わる機会はなかなかありませんでした。地元で「大分国際車いすマラソン」が行われていることなどは知っていましたが、実際に観戦したことがなかったので、知らない部分が多かったんですよね。
パラスポーツと関わる最初のきっかけは、プロ車いすアスリートの廣道純(ひろみちじゅん)さんと出会ったことでした。大分で活動されている廣道さんをご紹介いただき、競技に懸ける廣道さんの思いを知ったことで、俄然、パラスポーツに興味を持つようになったんです。
そんな中でいただいたのが、大分県障がい者スポーツアンバサダーのお話でした。2023年からそのアンバサダーを務めさせていただいていますが、これは本当にありがたい機会でしたね。興味を持ったことを、より深く知れるチャンスをいただけたわけですから。
アンバサダーとして自分に何ができるか、楽しみながらいろいろ考えている段階ではありますが、一つは、「僕自身がきっかけになる」ことかなと思っています。
何かに興味を持つには、きっかけが必要じゃないですか。僕が廣道さんと出会ってパラスポーツに関心を抱いたように、今度は僕自身が、皆さんにとってのきっかけになれればいいなと思っています。パラスポーツのイベントが行われることは知っていても、そこで何が行われているか知らない人って多いと思うんです。競技自体もそうです。それを僕が学んで発信し、興味のきっかけをつくっていくことが、今、一番すべきことかなと考えています。
みんなが違和感なくスポーツを楽しむ場を体験
大分障がい者スポーツアンバサダーに就任してからは、いろいろなイベントに出席させていただいています。去年の10月には「スポーツ・オブ・ハート」にも参加しました。何の違和感もなく参加できたというのが、一番の印象でしたね。いい意味で、みんながごちゃ混ぜになれるというか。車いすの方用の道があって、その傍らに僕らが歩く道があって、さまざまな人たちが同じことを楽しむ。そこには何の違和感もなく、初めてと言っていいくらい、素晴らしい体験でした。
「大分国際車いすマラソン」にも参加し、スターターを務めさせていだきました。車いすマラソンを生で見るのは初めてだったんですが、びっくりしましたね。選手たちの走るスピードがめちゃくちゃ速くて。あれは目の前で見たからこそ味わえた感覚でした。やっぱり、スポーツは生で観るのが一番です。
そういった経験を重ねて、今は“パラスポーツの入り口”に立っている感じです。スポーツはなんでも、まずは知るところから始まるじゃないですか。その競技を知って、ルールを知る。例えば、「車いすテニスは2バウンドまでOKなのか」とか、「ボッチャはこういう風に点が入っていくんだ」とか。そういったことがわかり始めた段階です。
パラスポーツは元アスリートとしても学びがいがある
一方で、こうして入り口まで来ると、その先の部分に興味が湧いてくるんです。「今日のフォーメーションはどうするんだろう」とか、「勝敗を分けた要因は何だろう」といった感じです。僕はまだそこまで詳しくないんですが、こういったことがわかってくると、絶対にもっと面白くなるので、いろいろ学んで、“入り口”から早く一歩踏み込みたいですね。
今、気になっている競技は、パリ2024パラリンピック競技大会で金メダルを獲った車いすラグビーです。車いすバスケットボールも面白いですよね。野球は、基本的にはぶつかり合うことがないんですよ。だから観ていて、「ぶつかる角度が少しずれたら、結果も違うんだろうな」といった想像が湧いてくる。それが面白いんですよ!すみません、スポーツを観るのが大好きなので、少し熱くなりました(笑)
今は「頑張れ!頑張れ!」って応援している段階で、それでも十分楽しい。ただ、やっぱりせっかく応援するんだったら、「あのパスが効いたよね」といったことなどをわかりたいですし、そこまで観られるようになると、もっと熱中できるんじゃないかなと思っています。
また、パラスポーツは元アスリートとしても、勉強のしがいがあるんですよ。それは、体の使い方についてです。僕は野球のバッティングの体の使い方は、理解しているつもりです。ただこれが、車いすソフトボールとかになると、全く別物になると思うんですよね。野球の場合は、「下半身を踏ん張って、しっかり力を伝える」みたいなことなんですけど、それを車いすに乗ってやるとなると、どういうパワーアクションになるのか。
きっと野球とは別物の体の使い方があるので、そういったことを習っていきたいんです。きっと野球にも生かせるところがあるし、スポーツ界全体の発展につながる可能性もありますから。
「ありがとう」が重なり合う、それがスポーツの良いところ
最近、“スポーツの良いところ”について、思うことがありました。Jリーグの大分トリニータの試合を観に行った時のことです。その試合は大分が勝ったんですが、サポーターの方たちの喜び方がすごかったんです。試合が終わって、選手たちがサポーターの前に並んで「ありがとうございました!」って言った瞬間、スタンドが大歓声に包まれた。その光景を見て、「これがスポーツの良さだな」と感じたんです。
選手たちは「観に来てくれてありがとう」と感謝する。一方のサポーターたちも、「こちらこそ、良いもの魅せてくれてありがとう」って選手たちを称える。こうして、「ありがとう」と「ありがとう」が重なり合う。これがスポーツの良いところなんだなって思ったんです。
パラスポーツでも、僕らが声援を送ることで、きっとそういった関係性が生まれてくるはずです。上手く、「ありがとう」が重なり合うつながりをつくっていきたいですね。そのためにもやっぱり、生で観戦することは大事なんですよね。
一歩を踏み出すことにはプラスしかない。まずは動こうぜ!
今年のパリ大会もそうでしたけど、以前よりもはるかにパラスポーツが盛り上がってきていることを感じています。それに伴って、パラスポーツや障がい者の人たちの暮らしについて知る機会も増えてきました。例えば、僕は今年、「パリの歴史的な道は、実は車いすだと走りづらい」といったことを知りました。
今、多様性という言葉がありますけど、やっぱり全員にとって暮らしやすい社会が求められていますし、そうしていかなければならないですよね。困っている人がいたら、手助けをする。これまでは戸惑ったり、躊躇したりしていたところを、一歩踏み出してみる。そういったことが、今の僕たちには求められているんだと思います。
そもそも、一歩踏み出すことって、プラスしかないと思うんですよね。大分障がい者スポーツアンバサダーに就任した経験を踏まえても、絶対にそうです。何かを知ったり、経験したりすることが、マイナスになることはあり得ませんから。
いきなり大きなことをやらなくてもいいんです。まずは、どれだけ小さくても良いので、一歩を踏み出してみること。興味があるのに、何もしないことが一番もったいないですからね。なので、パラスポーツに関心があったり、困っている人を助けたいという思いがあったりする人には、「まずは動こうぜ!」ってお伝えしたいです。自分の心が動く方に向かった方が、絶対に楽しい人生を送れますから。